予告無しで税務署が「税務調査します」と
やって来たらどうする?
ある日突然、何の前触れもなく
税務署の調査官が予告なしに会社事務所又は店舗にやってきて
「税務調査を行いたい」と言ってくることがあります。
これを「無通知調査」(または無予告調査)といいます。
通常であれば、電話などであらかじめ税務調査の予告である事前通知をしてくるのですが、
この無通知調査は、その手続きを省いて税務調査を行うのです。
よって心の準備がないままに税務調査を受けなければならないこととなります。
事業を行っていると、ある日突然、税務署から電話がかかってくることがあります。
そんなとき、一体どのように対応すればよいのか、どのようなことを話すのかを書いてみました。
ただし、どのような企業でもこの無通知調査が行われる可能性があるかというと、
そうではありません。
事前通知をしない場合の条件が、国税通則法74条の10として決められています。
(事前通知を要しない場合)
第七十四条の十 前条第一項の規定にかかわらず、税務署長等が調査の相手方である同条第三項第一号に掲げる納税義務者の申告若しくは過去の調査結果の内容又はその営む事業内容に関する情報その他国税庁等若しくは税関が保有する情報に鑑み、違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合には、同条第一項の規定による通知を要しない。
色々書いてありますが簡単にまとめると、
事前通知することによって証拠隠滅を図られる可能性がある場合や
その他、調査の遂行に支障があると認められる場合には
事前通知をしないと書かれています。
よく、予告なしで税務調査が行われるところは、
主に現金商売を行っている商売であるといわれています。
なかでも、売上を銀行振込ではなく直接現金で受け取っている
小売業や飲食業、サービス業などに売上の計上もれがあるのではないかと
疑われやすいところではあります。
売上を現金で受取っている企業は、銀行振込と違って入金の事実がはっきりしておらず、
なおかつお客さんが主に消費者である場合は、あまり領収書を求められなかったりするので、
レジを打たなければ売上の存在自体見つけにくいという性質があります。
そんな折に調査に入ると予告されれば、
故意に売上金をごまかしていた企業は、
いままで日常的に隠していた売上をすべて表に出すなりして、
税務調査の日までに売上洩れは一切ないかのように装うことが可能となります。
それを防ぐために無通知で税務調査が行われるのです。
しかし、そのような事情があるものの
「現金商売=売上洩れ、よって無通知調査するぞ!」などと
勝手に決めつけられ、抜き打ちで調査をされたらたまったものではありません。
現金商売でまじめにキッチリ経営している企業までも勝手に疑われて、
心の準備もなくいきなり税務調査をされてしまうのでは割に合いません。
国税もそこは考えているようで国税通則法第7章の2関係通達4-7に、
「単に不特定多数の取引先との間において現金決済による取引をしているということのみをもって事前通知を要しない場合に該当するとはいえないことに留意する」
と示されています。
よって、現金商売をやっているからという理由のみで
無通知調査をしていいわけではないとしています。
では、どのような状況になると無通知調査を受けざるを得なくなるのか、
条文に戻ると
「納税義務者の申告若しくは過去の調査結果の内容又はその営む事業内容に関する情報その他国税庁等若しくは税関が保有する情報に鑑み、違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合」とあります。
つまり、納税者の今までの申告状況や過去の税務調査の結果、
その経営する業種・業態、取引形態、決済手段、業界特有の取引慣行等の
事業の内容や税務署が持っている情報などを照らして考えつつ、
「違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれ」や
「その他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」があると認める場合には
事前通知無しで税務調査を行うとしています。
「違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれ」については通達4-9で、「その他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」については通達4-10において例示されています。
4-9 法第74条の10に規定する「違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれ」があると認める場合とは、例えば、次の(1)から(5)までに掲げるような場合をいう。
(1)事前通知をすることにより、納税義務者において、法第127条第2号又は同条第3号に掲げる行為を行うことを助長することが合理的に推認される場合。
(2)事前通知をすることにより、納税義務者において、調査の実施を困難にすることを意図し逃亡することが合理的に推認される場合。
(3)事前通知をすることにより、納税義務者において、調査に必要な帳簿書類その他の物件を破棄し、移動し、隠匿し、改ざんし、変造し、又は偽造することが合理的に推認される場合。
(4)事前通知をすることにより、納税義務者において、過去の違法又は不当な行為の発見を困難にする目的で、質問検査等を行う時点において適正な記帳又は書類の適正な記載と保存を行っている状態を作出することが合理的に推認される場合。
(5)事前通知をすることにより、納税義務者において、その使用人その他の従業者若しくは取引先又はその他の第三者に対し、上記(1)から(4)までに掲げる行為を行うよう、又は調査への協力を控えるよう要請する(強要し、買収し又は共謀することを含む。)ことが合理的に推認される場合。
4-10 法第74条の10に規定する「その他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」があると認める場合とは、例えば、次の(1)から(3)までに掲げるような場合をいう。
(1)事前通知をすることにより、税務代理人以外の第三者が調査立会いを求め、それにより調査の適正な遂行に支障を及ぼすことが合理的に推認される場合。
(2)事前通知を行うため相応の努力をして電話等による連絡を行おうとしたものの、応答を拒否され、又は応答がなかった場合。
(3)事業実態が不明であるため、実地に臨場した上で確認しないと事前通知先が判明しない等、事前通知を行うことが困難な場合。
調査官がやって来て無通知調査をされそうになったときは、
とりあえず通達の4-9の(1)~(5)と
4-10の(1)~(3)に一致しているかひとつひとつ確認して、
果たして自分は無通知調査を受けなければならない納税義務者であるか確認する必要があります。
その上で、どの項目にも該当しないのであれば、
本日のところはお帰り願って
後日事前通知の上で税務調査をしてくださいと話し合うことが可能となります。
ただ、必ずしもどれにも該当しないから無通知調査はなしにできるというものでもありませんが。
結局のところは、税務調査は免れることはできませんが、
うまくいけば抜き打ち的な税務調査は受けなくても済みますというぐらいでしょう。
ただし、そもそも事前通知があったにもかかわらず無視や拒否をしたり、
電話が通じない状態等により通知ができない状態にある場合や
開業届や申告書の提出がない等の事情により
事前通知を行うことが困難な場合(4-10の(2)と(3)に該当している)は、
無通知調査を避けることは非常に困難であると思われます。
税理士さんと顧問契約などをされている場合は、
調査官が無通知調査でやって来たら、調査官を店や事務所などに入れないで、
すぐに税理士さんに電話をかけた方がよいでしょう。
「税理士に電話をかけているのでちょっと待って欲しい」と言って
調査官には外で待ってもらいましょう。遠慮はいりません。
相手も遠慮なくあなたの事務所に突然押しかけてきているのですから。
もし、税理士さんが来てくれるのであれば、
「税理士が来るのでそれまで外で待っていてほしい」と伝えましょう。
「とりあえず中でお話しを」などと言って事務所等に調査官を入れてしまえば
無通知調査を受け入れたと認めることになります。
無通知調査に納得がいかないのであれば、
事務所や店の外などで、どのような理由で無通知調査を実施するのかを確認をしましょう。
記事にいろいろ書きましたが、やはり無通知調査を受けやすいのは現金商売であることは否めません。
ただ、税務署側も無通知調査を行うということは、
それなりの確証をもってやって来ているはずなので、それなりの覚悟が必要かもしれません。
無通知調査の一番の対処法は、
日々の取引の記録を帳簿にまとめて
会計上、税法上に従った正しい会計処理を淡々と行っていくことでしょう。
正しい申告をしているのであれば堂々としていられますし、
堂々と日時の変更の交渉ができるでしょう。
(最終更新日:2022/09/22)