調査官に従業員のロッカーや鞄の中まで
見せる必要があるのだろうか?
名古屋市北区の税理士 太田啓之です。
税務調査において、トラブルになる問題のひとつに
プライベートに関わるようなものについて見せる見せないで言い争うことがあります。
税務調査(一般調査)では、
帳簿書類や資料などをすべて提示して、調査官からの質問にも答える必要があるのですが、
その調査において調査官から「見せてください」と
要求されたらどこまで見せる必要があるのか。
たとえば、従業員の私物が入っているロッカーの中や従業員の鞄の中のような
個人的なものなどを開示する義務はあるのだろうか。
今回この問題について書いてみました。
調査官の税務調査の権限はどこまで及ぶのか、
そのことについて判例があるのですが、それによると、
「所得税法二三四条一項の規定は、
国税庁、国税局または税務署の調査権限を有する職員において、
当該調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、
帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事情にかんがみ、
客観的な必要性があると判断される場合には、前記職権調査の一方法として、
同条一項各号規定の者に対し質問し、
またはその事業に関する帳簿、書類その他当該調査事項に
関連性を有する物件の検査を行なう権限を認めた趣旨であつて、
この場合の質問検査の範囲、程度、時期、場所等
実定法上特段の定めのない実施の細目については、
右にいう質問検査の必要があり、かつ、
これと相手方の私的利益との衡量において
社会通念上相当な限度にとどまるかぎり、
権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解す」
〔最高裁昭和48年7月10日 昭和45(あ)2339 刑集 第27巻7号1205頁〕
とされており、
客観的な必要性があり、私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまるかぎり、
権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているとされている。
つまり、調査官の判断に客観的な必要性が認められれば、
たとえ私物が入っている机の引き出しやロッカーの中でも調査することは
可能であるということになっています。
ここで注意したいのが、客観的な必要性があればという点です。
調査官がいくら質問検査権という権限で税務調査をすることが認められているとはいっても、
従業員のロッカーや鞄の中を好き勝手に空けて確認することが、
客観的な必要性に欠けたものであれば、
違法な質問検査権の行使であり認められるものではありません。
しかし、客観的な必要性が認められない調査であっても本人の同意があれば確認することが
可能であるとされています。
よって調査官は言葉巧みに
「なんらやましいことがなければ、見せても平気なのでは」とか
「質問検査権により調査官の自由な裁量により調査することが可能です」
「事業所の敷地内にあるものはすべて調査の対象となります」
「見せられない理由はなんですか」などと言って、
なんとかして同意を得ようとしてくることがあるかも知れません。
事業に関係する帳簿書類・資料などが入っていたら話は別ですが、
本当にプライベートに関するものしか入っていなければ堂々と拒絶してかまいません。
「プライベートに関するものしか入っておりませんので」と言って、
調査官から何を言われようとも突っぱねましょう。
安易に同意をしてはいけません。
一度同意してしまうと後から「あれは違法行為だった」と主張したとしても、
その主張が受け入れられない恐れがあります。
拒否しているにもかかわらず、調査官が勝手に引き出しやロッカーなどを空けたり、
力ずくで鞄を奪って確認しようものなら違法であるため、
すぐに管轄の税務署(調査官の上司にあたる統括官)に電話で抗議し、
税務調査の一時停止や調査官の変更などを要求しましょう。
しかしながら、これで税務調査自体が中止になる可能性は、限りなく低いと思われます。
そもそも、このような事態を発生させないためには、
普段からあまり私物や特に人に見られたくないようなものを
会社内、事業所内に持ち込まないようすることを
社内ルールとして決めておくとよいのかもしれません。
今回の記事はあくまで、税務調査の一般調査のことであり、
国税査察官(通称「マルサ」)の行う強制調査においては、
裁判所の令状をもってやって来ているため証拠物件もしくは没収すべき物件と思わしいものは
差押えができる(国通法132条)ので、ロッカーの中を見せる見せないなどで争うことはできません。
ただ、よっぽど悪質な脱税を行っていない限り、
中小企業には強制調査など行われないので、
今回の記事のような一般調査の対処法だけ知っておけば事足りるでしょう。
(最終更新日:2022/11/07)